猫に会いに
「猫に会わせてくれる?」
ダメ元で言ってみた。
「会ってくれるの?」
あの人はちょっと嬉しそうだった。
わたしが、あの人のもとへ訪れたのは、あの人の死んだ猫に会わせてもらうため。
猫は、まるで眠っているだけのようだった。
わたしは、猫を撫でさせてもらった。
しょうがないことだが、やはり体は冷たかった。
でも、そのことは黙っておいた。
頭にキスしたかったが、それは、ご家族だけに許されることだと思ってやめた。
一時間ほどで帰るつもりだったが、思いのほか、長居してしまった。
あの人の、この時間を悲しいものだけにはしたくなかった。
だけど、そんなのは、わたしの思い上がりで、あの人は、やはりこの時間をも悲しむだろう。
次の日、猫がお空に還っていく時間のだいぶ前に、外を出た。
その時間まで部屋にいるのは、いたたまれなかった。
外はどんより、雲が広がっていた。
だけど、時間になる少し前、薄日が差してきた。
上を見上げると雲間から太陽が見えていた。
なんとなく救われる思いで空を見上げた。
あの人も少しは救われただろうか。
そんなことを考えながら。